投資の低速としてコストを抑えることは重要です。相場のコントロールはできませんが、コストはある程度コントロールが可能です。購入や維持にかかる手数料はもちろん、税金も大きなコストです。そのため、投資を始めるなら非課税投資枠を優先的に活用したいですね。いくつか選択肢はありますが、積み立てニーサから投資を始める方が多いと思います。20年という長期間にわたって非課税運用ができますし、購入できる商品も絞られています。つまり、投資初心者さんでも迷わず続けやすいというメリットがあるからです。
それから積み立てニーサがあっていれば安泰かというと、そんなことはありません。どんなに使い勝手が良い制度だとしても、万人にとって良いとは限らないからです。
目次非課税運用の魅力を再確認
投資によって得られた運用益や分配金には通常約20%の税金がかかりますが、積み立てニーサを利用した投資では非課税になります。このような説明を聞いただけでもお得になるのだろうなということは理解できますね。ですが、複利運用を続けていく過程でずっと非課税で運用ができることのメリットは、具体的な数字を見ながらでないとイメージが湧きにくいかもしれません。
そこで今回は、S&P 500の平均的な利回りである年率6.8%を目安にして、非課税と課税の違いを比較するシミュレーションをしてみたいと思います。S&P 500の平均利回りは、これはショックからの回復期を含めた20年間で取ると年利8%になります。ただこれは出来過ぎの感があるので、今そばに見積もっておくことにします。
まずは税金のことを特に考慮せず、月々3.33万円を20年間積み立て年率6.8%で運用した場合のシミュレーションがこちらです。20年間休むことなく積み立てを続けていれば約1700万円になるという結果でした。積立元金は約800万円ですから、実質2倍以上になるということですね。改めて複利運用の力を感じることができますね。
それでは、同じように積み立てつつ、福利ごとに課税された場合のシミュレーションを見てみましょう。今回はこのような条件でシミュレーションをしてみました。シミュレーションをした結果がこちらです。税引き後の元利合計は約1420万円になるという試算結果でした。非課税運用の場合と比べると約280万円も手残り額の差が出ていますね。これはあくまでも概算シミュレーションです。それでも、複利での長期運用をする上で非課税で運用を続ける効果のご実感は感じていただけたのではないでしょうか。
やってはいけない積み立てニーサの買い方5選
非課税運用の効果を実感したところで、いよいよ本題に入ります。やってはいけない積み立てニーサの買い方5選はこちらです。ご自身に当てはまってしまいそうなものはありますでしょうか?問題点はどこにあるのか、さっそく1つずつ確認していきましょう。
非課税投資枠を埋めることが目的化し、預貯金がなくなる
突然ですが、イギリスの歴史政治学者であるパーキンソン氏が提唱したパーキンソンの法則という言葉を聞いたことがあるでしょうか。パーキンソンの法則には第1法則「仕事の量は関西のために与えられた時間を全て満たすまで膨張する」第2法則「支出の額は収入の額に達するまで膨張する」という2つの法則があります。
もう少しイメージしやすくなるように具体例を挙げてみましょう。8時間で資料を作成するように依頼を受けたら、本当は4時間で終わる仕事でも丸々8時間を使ってしまう。月20万円の収入で支出が10万円でカツカツだからと10万円収入を増やしたが、その分支出が増えてしまい結局カツカツのままだった。つまり、与えられた枠があるとギリギリまで使い切ってしまうということです。自然に任せてしまうとこのような法則が働いてしまうということですね。
この法則を積み立てニーサに当てはめてみましょう。年間40万円の非課税投資枠を使い切らなければもったいない、このように思ってしまう可能性が高いということです。たとえば、こちらは積み立てニーサ対象ファンドの過去4年間の資金流入額トップ10です。積立ニーサに興味を持ちちょっと調べ始めると、このような情報がどんどん目に入ります。4年間で90%を超えるリターンがあるなら投資を始めないともったいない。非課税投資ができるならすべての枠を使い切らないともったいない。このような極端な考えになってしまい、余裕資金の大部分を投資に回してしまう方が一定数いらっしゃいますね。
資産が少ない時に増やそうと思ったら、ある程度のリスクを取る必要があるというのも一理あります。ですが、決して忘れてはならないのが投資の場合は常に右肩上がりに増えていくわけではないということです。リターンのシミュレーションを見る機会が増えると、このような右肩上がりのグラフを多く見るため感覚がずれていくことがあります。実際には株価は上下に振れながら長期的に見れば上昇していくことが期待できます。過去のデータを見れば、20年間の平均利回りは結果から逆算すると平均で年利6.8%に相当する結果だったという意味合いですね。
これはS&P 500の20年チャートを見てみれば一目瞭然です。元の水準まで20年近くかかっていることもありますし、急激に下げて急激に戻ることもあります。何となく頭ではわかったつもりでいても、下落相場を経験したことがないと余裕で乗り越えられると楽観的に考えがちです。特に2020年3月のコロナショック後に投資を始めた方の場合には、資産が増え続けるイメージが強かったかもしれません。
その頃が2021年秋ごろから投資を始めた場合には、見える景色が全く異なります。特に2022年1月に入ってからの下落は大きく、元本割れをして資産がどんどん減っていく状況を目の当たりにすることになります。計画せずに始めてしまっていたら、パニックになって証券口座をしょっちゅう眺めてしまっているかもしれませんね。
積立ニーサが始まった2018年から積み立てを続けていた方であれば、これまでの含み益がありますので多少の下落があってもそれなりに利益が出ているでしょう。積立ニーサの恩恵を最大限に引き出すためには、20年間の非課税期間をフル活用して運用を続けていくことが大事です。
言葉で言うのは簡単ですが、下落している時に淡々と続けるのは意外と難しいものです。ただでさえ不安になる下落時に、余剰資金が全く預貯金がなかったら不安は倍増しますし、仮に耐えられたとしても急な支出が発生すれば嫌でも売却して現金化しなければならなくなります。やむを得ず売却することになれば、投資でお金が減ったという苦い思い出だけが残ってしまいます。
投資なんかもうやめようという頑なな気持ちになってしまったら、下落による金銭的な損失はもちろんのこと、資産形成の手段として投資を活用できなくなるという機会損失も抱えることになるでしょう。投資は余裕資金でやるものだというのはそういうことですね。一定の生活費やお子様の学費などを除き、なくても今の生活に大きな影響がない範囲のお金を投資に回しましょう。
非課税投資枠を有効活用することは大事ですが、それが余裕資金を超えるようでは本末転倒です。誰の心にもパーキンソンの法則が潜んでいるのだと考えて、無理なく長期的に続ける範囲で非課税投資枠を活用することが結果として成功につながります。そして、もし非課税投資枠を埋められるだけの投資余力がない状態なら、まずは現在の支出や収入を見直して余裕資金を増やすところから始めていきましょう。
バランスが必要なポートフォリオを組む
積み立てニーサを活用する場合、次の3つの特徴を押さえておくことはとても重要です:
1. 損益通算の対象にならない
2. 損失の繰越控除の対象にならない
3. 非課税投資枠を用いて購入した金融商品を一度売却すると、その商品を購入するために消費した非課税投資枠は復活しない
損益通算とは、同じ年に利益が出た商品と損失が出た商品があった場合に損益を合算して税金を計算する処理です。例えば、ある年に投資信託Aを売却して50万円の利益が出たが、投資信託Bを売却して50万円の損失が出た。このような場合はトータルではプラスマイナスゼロ円になります。だから税金がかからずに済むということです。先に税金を引かれていた投資信託Aの税金は確定申告をすることで取り戻すことができます。
ところが、投資信託Aを売却して50万円の利益が出たが、積立ニーサで買った投資信託Cを売却して50万円の損失が出た。このような場合には投資信託Aの50万円の利益に対して税金がかかります。積立ニーサの損失分は課税口座の利益と相殺することができないのです。損失の繰越控除とは、その年に控除しきれなかった損失を翌年以降最長3年間にわたって繰り越して利益と通算できる制度です。こちらも積み立てニーサで発生した損失は繰り越しの対象になりません。
これらの特徴を踏まえると、積立ニーサでは一度買ったらそのままずっと20年間持っておくことができる商品を選ぶのが大事です。このように売却がしにくい積み立てニーサですから、アセットのリバランスをしていくのはなかなか大変な作業になります。
例えば、積み立てニーサで国内株式20%、先進国株式60%、新興国株式20%というように複数のアセットを組み合わせて比率を守りながら運用したい場合には、ノーセルリバランスを目指すことになります。ノーセルリバランスとは、比率が崩れてきたらこれから買う分の比率を調整する方法です。増えすぎたアセットの購入を抑え、減りすぎたアセットの購入を増やします。そして、もともと想定していた比率に近づくように買い進めるという方法です。
ただ、現実的には非常にやりにくいですね。非課税投資枠を満額活用したい場合には、年間40万円に収めつつ比率の微調整もすることになります。さらに調整が難しくなってしまいます。積立ニーサではリバランスが必要がない王道の指数を選んでおくのがいいですね。S&P 500やVTIに連動する投資信託がオススメですが、ご自身の投資方針によっては全世界の株式分散する投資信託、低コストなバランスファンドなどを選んでおくと良いでしょう。
シンプルに淡々と積立を続けていくことが投資を長続きさせる秘訣となります。積立ニーサ以外でも投資をしている場合には、リバランスは資産全体で考えるようにして、積み立てニーサ商品はホールドが基本ですね。
老後資金が目的なのにiDeCoを比較検討せずに始めてしまう
20年という長期投資の期間を利用して老後資金を貯めるために積立ニーサを始める方は多いです。老後資金の準備という意味ではiDeCoという選択肢もありますね。60歳まで引き出せないことを嫌ってiDeCoを避ける方もいらっしゃいますが、老後資金という目的が明確なら場合によってはiDeCoを優先させた方が良いことがあります。特に個人事業主の方はメリットが多いですね。
退職金がしっかり出る会社員の場合には出口戦略をよく検討する必要があります。しかし退職金がない個人事業主は、一括受取時の控除を最大限に活用できるからです。また、iDeCoは差押禁止財産の扱いになるのもメリットです。例えば破産してしまった場合には、預貯金や不動産などの財産は差し押さえ対象になります。ところがiDeCoの積立額は年金扱いということで資産保全がされます。
老後資金のつもりでも積み立てニーサで準備していれば当然差押えの対象になります。特に仕事が安定しない場合はこの違いは大きな意味を持つでしょう。個人事業主の場合には国民年金基金に加入されている方も多いでしょう。給付額が確定しているという点は魅力ですが、現在の予定利率は1.5%と決して高くはありません。財政面でも厳しいものがありますね。令和2年度時点では約15%の積み立て不足が発生しています。令和元年に比べると少し持ち直していますが、厳しい状況に変わりはないでしょう。
このような状況を踏まえつつ、国民年金基金の掛金とiDeCoのバランスを見直してみる。さらに余力があれば、余力の範囲内で積み立てニーサを活用していく。このような順番で活用する方が向いている方もいらっしゃるということです。
40代の方が積み立てニーサの非課税期間をフル活用する場合、20年後には60代になっていますね。積み立てニーサを活用した場合でも、iDeCoを活用した場合でも老後の備えになる可能性が高いということです。それならば、iDeCoと積み立てニーサの違いをしっかり比較検討しておき、自分に合ったバランスで活用していくのが良いでしょう。
長期海外赴任の予定があるのに積み立てニーサを始めてしまう
以前は海外に転出して非居住者になると、ニーサ口座自体がクローズされてしまいました。損失が出ているタイミングで海外赴任が決まってしまったら損失が確定してしまったわけです。さすがにそれは忍び